ピアノ練習がストレスになる前に:親子関係が変わる「声がけ」の視点

前回のブログでは、
ピアノを習い始めた頃に多くの方がつまづきやすい「練習の習慣化」について、解決のヒントをお伝えしました。

その中でよく耳にするのが、
自宅練習のサポートが、いつの間にか親子バトルに発展してしまう
というお悩みです。

子どものためを思って声をかけているはずなのに、
気がつくと親も子も疲れてしまい、ピアノがストレスの原因になってしまうというのは、決して珍しいことではありません。

その原因のひとつに、
練習中の「声がけ」があるように感じています。

 

つい言ってしまいがちな言葉

家族という近い関係だからこそ、
つい厳しい言い方になってしまうことは、ピアノに限らず日常の中でもよくあります。

たとえば、こんな言葉をかけていませんか?

・練習時間が短すぎる
・これくらいできるでしょ
・練習が足りないから、できるようにならないのよ

レッスンでも親御さんから、何気ないことですが
「どうしてこんなこともできないのでしょうか」と聞かれることがあります。

どれも、言われたことでやる気につながることはほとんどなく、
かえって自信を失ったり、意欲を削いでしまう可能性のある言葉です。

 

なぜ、その言葉をかけてしまうのか

まず一度、
「なぜ自分はその言葉をかけてしまうのだろう?」
と考えてみることをおすすめします。

それと同時に、
自分自身が、苦手なことをやらなければならない時、
どんな言葉をかけられると前向きな気持ちが失われるのか
想像してみてください。

「練習時間が短すぎる」「これくらいできる」という言葉は、
親御さん自身の“感覚”が基準になっていることが多いものです。

たとえば、
「自分が子どもの頃は30分くらい普通に練習していた」
「5分も座っていられないのはおかしい」

そんな思いがあると、
「もう練習終わりなの?全然弾いてないじゃん」
という言葉が、つい口から出てしまいます。

また、ピアノを始めたばかりの頃は内容も簡単そうに見えるため、
「すぐできるはず」と思ってしまい、
できない部分を次々と指摘してしまうこともあります。

けれど、習ったことを自分のものとして消化していくスピードは、人それぞれです。

一度にあれこれ言われると、
「もういいや」と、やる気が一気に冷めてしまうことも少なくありません。

 

「普通」は人それぞれ

このような言葉がけをしてしまう背景には、
「自分にできることは、普通は誰でもできるはず」
という感覚が、どこかにあるのではないでしょうか。

私自身、子どもの頃に音符を覚えることにそれほど苦労した記憶がなく、
ピアノを始めた頃の教材も、比較的スムーズに進みました。

そのため、子どもの頃は
「それが普通なんだろう」「できない子はサボっているのでは」
と、どこかで思っていた時期があります。

ですが、どんな曲も初見で完璧に弾けるわけではありませんし、
私の初見能力も、音大卒の中ではごく平均的です。

世の中には、
どんな難曲でも初見でスラスラ弾けたり、
数回弾いただけで暗譜してしまう人もいます。

その人たちにとっては、それが「普通」。
逆に言えば、そうした人から見たら、
私のような人は「なぜこんな簡単なことができないんだろう?」
と思ってしまってもおかしくないと思います。

つまり、「普通」はあくまで個人的な基準であって、絶対的なものではないのです。

教師や親など、誰かをサポートする立場にいる人ほど、
この視点を忘れずにいたいものですね。

 

大人の自分に置き換えてみる

練習の習慣化に悩むお子さんの気持ちを理解するために、
ご自身が苦手なことや、習慣化に苦労していることに置き換えて考えてみるのもおすすめです。

前回のブログでは、
まずは「1日5分」の練習から始めてみましょう、というお話をしました。

大人でも、新しい習慣を身につける時は、
最初は目標を低く設定すると、達成感を得やすいと言われています。

たとえば、片付けが苦手な人が、
「毎日5分だけ片付ける」と決めたとします。

1日5分では、部屋全体の印象はあまり変わらないかもしれません。
でも、ゼロと5分では、確実に違います。

そんな時、
「たった5分じゃ何も変わらないね」
と言われたら、どんな気分になるでしょうか。

また、運動が苦手な人が、
「毎日5分だけウォーキングしてみよう」と始めた時に、
「5分なんて運動とは言えないよ」と言われたらどうでしょう。

逆に、どんな言葉をかけてもらえたら、
「もう少し続けてみようかな」と思えるでしょうか。

たった5分でも、やらないよりは確実に前進しています。

 

子どもの視点でサポートするために

誰にでも苦手なことはあります。

それを克服したいと思ったとき、
「どんな言葉をかけてもらえたら嬉しいか」を想像することは、
お子さんの視点に立ってピアノ学習を支える、大きなヒントになるはずです。

大切なのは、表面的なテクニックや、誰かの作った「正解の言葉」を真似することではありません。

ぜひ一度、「ご自身の基準」から離れて、 お子さんの「着実な一歩」を育むにはどんな言葉が良いか、考えてみてください。

次回は、もうひとつの大切な要素である
「練習環境の整え方」についてお伝えします。

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