前回は「ピアノの技量を“曲のレベル”だけで判断することが、上達を妨げる要因の一つである」というお話をしました。
本日は、その誤った認識のまま曲を選ぶことの危険性についてお話しします。
「進度がゆっくり」=「上達していない」ではない
レッスンの中で、特に入門〜初級の生徒さんの保護者の方から
「テキストの進みがゆっくりですが、大丈夫でしょうか?」
と質問をいただくことがあります。
また、体験レッスンに来られた方からも
「前の先生は合格をなかなかくれず、進度が遅くて…」
というお話をよく伺います。
そう聞くと「厳しい先生なのかな?」と思われるかもしれませんが、実際に演奏を聴いてみると、技術に対して進度が遅すぎると感じることはほとんどありません。
むしろ、ちょうど良いペースで学ばれているケースが多いのです。
「親のサポートがないと弾けない」原因
また、小学校高学年くらいの生徒さんでも、
「親がずっと練習に付き添って、一緒に譜読みをしないと弾けない」
というご相談を体験レッスンで伺うことがあります。
この場合、「進度が遅いから」ではなく、その内容を本人が自力で理解できていないことが原因です。
つまり、本人にとってそのテキストがまだ難しすぎるということなのです。
読譜力・テクニックを最短で伸ばすテキスト選び
では、誰もが気になる「読譜力」や「テクニック」を最短で伸ばすにはどうすればよいのでしょうか。
結論は、今の自分より“少しだけ難しい”曲をたくさん練習することです。
よくある誤解
・難しい曲に挑戦すれば上達する
・曲のレベルを上げることが成長だと思っている
・技術よりも「次の曲」を優先してしまう
このような状態では、なかなか力はつきません。
もしピンと来ない場合は、これまで弾いてきた曲を少し振り返ってみてください。
上達のヒントは、これまで弾いた曲の中に
・1曲ごとに満足のいく仕上がりでしたか?
・その曲で「新しくできるようになったこと」はありますか?
・習得できなかったことは何ですか? 今後どうすれば克服できそうですか?
さらに、次のようなことが思い当たる人は、レベル設定が高すぎる可能性があります。
・譜読みに時間がかかりすぎる、音ミスが多い
・指が回らない、手が痛くなる、テンポが上がらない
・仕上がる前に飽きてしまう
・練習しても変化が見えない
「少し頑張れば届く」壁がちょうど良い
少し背伸びすれば弾ける曲を選ぶと、譜読み・テクニックの両方が確実に伸びます。
そして、そのような曲をたくさんこなすことで、さらに力がついていきます。
逆に、難しすぎる曲は基礎が追いつかず、かえって成長の足かせとなってしまいます。
それぞれの学び方で
もちろん、これは「最短で効率よく上達する」ための方法なので、私は、すべての人がこのやり方で学ぶ必要はないと思っています。
なぜなら、人によって
・ピアノにかけられる時間
・どんなふうに弾けるようになりたいか
・楽しさを重視するか、成長を重視するか
などが、それぞれ異なるからです。
だからこそ、一人ひとりの目的に合わせて、最適な道を一緒に探していきたいと考えています。
「楽しさ」と「成長」のバランスは人それぞれ
成長を重視するなら基礎練習が多くなりますし、
楽しさを優先するなら「弾きたい曲」を取り入れることも大切です。
その上で、自分に何が足りないのか、どうなりたいのかを常に考えながら練習していく必要があります。
主体性を持つことで、上達スピードも満足度も大きく変わります。
音高・音大を目指す場合は例外
音高・音大を目指すような生徒さんに対しては、
「好きな曲を優先したい」という希望に、はっきりと反対します。
なぜなら、基礎ができていないまま進むと、その後の音楽人生で“地獄”を見ることになるからです。
一時的には弾けた気になっても、基礎をおろそかにした“ツケ”は必ず回ってきます。
今弾いているテキストが実力に合っていないと判断した場合、
たとえすでに終えたテキストであっても、戻ってやり直すことを勧めることがあります。
私自身も子どもの頃、進度だけが早く、実力が伴っていなかったため、別の先生に変わった時、「やり直し」を言われたことがあります。
ショックでしたが、心当たりもあったので、今ではその時に立ち止まって本当に良かったと思っています。
この経験から、「気づくこと」が何より大切だと痛感しています。気づけなければ、間違った方法で努力を続けていたでしょう。
趣味でピアノを楽しむ方へ
趣味でピアノを楽しむ方の学びの質も、主体性で決まります。
私は目標に応じた曲をご提案しますが、弾きたい曲についてただ尋ねるだけでなく、ご自身で現状を見つめ、計画を立てる姿勢を持つことで、その満足度と成長は格段に引き上がります。
あなたの目標は何ですか?
私のレッスンでは、同じ曲でも、生徒さんによって教える内容も合格ラインも異なります。
生徒さんが「進度がゆっくりで不安」「思っていた提案と違った」と感じることがあっても、その背景には、すべて明確な意図があります。
もし疑問や不安があれば、どうぞ遠慮なく相談してください。
皆さんが主体性を持ってピアノに向き合うことで、レッスンはもっと充実したものになると思います。